Ｓさんは７年前に予防接種の際に大きなパニックを起こし、それ以降注射が出来なくなりました。採血ができないので、ワクチン接種も、薬の調整もできなかったそうです。弊社の生活介護事業所Kaiをご利用してから、コロナワクチン接種をしたいと親御さまから相談がありました。
そこで、Ｓさんの理解に合わせた支援をさせて頂きました。
1. 視覚的にわかりやすく伝える
１つ目は、理解に合わせてイラストを用いて視覚的に情報なスケジュールを提示しました。
なぜスケジュールを示す必要があるのかというと、自閉症の方は「今何をするべきなのか」「何があったら終わりなのか」「終わったら次に何があるのか」など見通しを持てないと、不安や混乱が生じることがあります。そこで、病院の名前や行き方、10数えたら採血は終わり、その後の行動などをスケジュールに表し、ご本人が口に出して読み上げることで、見通しを持って採血に臨めるよう配慮させて頂きました。
また、なぜイラストなのかというと、自閉症の方は、口頭よりも目に見える情報の方が伝わりやすいという特性があります。Sさんの場合は、イラストの理解が得意なので、イラストで当日の採血の流れを事前に示しました。イラストの他にも文字、写真、具体物など、一人一人に合った形で情報を提示します。どの情報が伝わりやすいかは、理解のアセスメントという検査を行い、その結果に基づいて最適なものを選びます。
2. 見通しをもつ
2つ目に、ご本人の自閉症の特性に合わせて事前に注射会場の下見を行いました。自閉症の方は、先の見通しを持てないと、不安や混乱が生じることがあります。そこで、ご本人が見通しを持って採血に臨めるように事前にその場に行くことで練習しました。
本番当日
採血では、途中でトラブルがあり2分間注射針を刺したままでしたが、1～10を何度も数え直し、最後まで頑張って下さりました。
きちんと先の見通しを持たせるための視覚支援など丁寧に時間をかけてアプローチした結果、パニックを起こすことなくワクチン接種を受けることが出来ました。それからコロナワクチン3回、採血1回を穏やかに受けることができ、親御さまも大変喜んで下さりました。
必要な支援をなくしてしまうと…
保護者様はパニックを起こすこともなくなったため、急遽思い立って内科受診をした上で採血しようと段取りを進めたところ、Ｓさんは病院で大きなパニックを起こしてしまい、断念されたそうです。そこで、再度仕切り直しで支援に入ってもらいたいとのご依頼をいただきました。
Sさんから学ばせて頂いたこと
Ｓさんの出来事を通して、自閉症の特性上、絶対に外してはならない支援（この場合は視覚支援）があり、きちんと見通しを持たせた対応が大切であることを教えてくれました。１月２２日にＳさんと一緒に医療機関を受診し、採血する予定です。もちろん、事前にＳさんに当日のスケジュールとカレンダーには２２日に佐藤と一緒に病院にいくことも提示しております。視覚支援は自閉症の方にとってなくてはならないものです。
自閉症支援のフレームワークについて
フレームワークという言葉はよくビジネスに使われます。ビジネスのフレームワーク、事業のフレームワークなど意味としては「共通して用いることが出来る考え方」、「分析」、「問題解決」、「戦略立案」などがあります。
では、私たち自閉症支援に携わる者としてフレームワークを持って支援にあたっている方はどれくらいいるのでしょうか？
14年前に障害者支援施設で働き、重度の自閉症の方の担当になりました。自閉症の知識など何一つ無かったため、身銭を切ってセミナーや研修会に参加し、知識を習得していきました。その中で出会ったのがTEACCHの理念です。
特性から見ていくこと、アセスメントを基本とすること、個別化の視点で捉えること、保護者と協働でアプローチすること、自閉症の文化を知ることなど当時は衝撃的な学びでした。
今ではTEACCHの理念、そして応用行動分析の視点を基に私なりの自閉症支援のフレームワークが確立されています。考え方が定まらないと支援者は様々なアプローチ方法に振り回されます。結果、路頭に迷ってしまいます。アイディアは大事、でもそれをきちんと活用できるのは考え方次第。とにかく考え方、フレームワークを様々な支援者でも再現性が作れるに言語化して社員教育を通して弊社の文化にしていきたいと思います。
執筆者：佐藤宏満（株式会社OHANA 代表取締役）
編集：杉本 麗百（株式会社OHANA 事業マネージャー）